一戸建て 宝塚の心をつかむための施策

気づかいをされることに慣れてしまった若い人が多い。
親をまるで友だちのように扱うことに慣れてしまった若者は、どうしても目上を敬うことが下手だ。
先生や上司にもやたらに若い人たちに迎合し、彼らの言動にカチンとは来ても決して傷つけるようなことは言わない人が多い。
そのかわり次第に離れていくか、冷たい扱いをすることになる。
これは大変なことだ。
家庭内で親が子供に気をつかって友だちのように育てたことが、学校や職場でこうした扱いを受けるもとになっているとしたら、かわいそうなことだ。
この点は父親が反省すべきだろう。
家庭内に毅然とした父親の座がないからだ。
血はつながっていても、昔の大家族主義のように家長である父親に一家の長、大黒柱としての重みがない。
今や血のつながりは大きなファクターではないのかもしれない。
たとえ親子でも、意識し合わなければ親子になれないのが寂しい。
そこで、どうせ子供を意識するなら、子供を意識しないように意識し、あえて父親が家長であることを意識し、演出する。
いったん子供を無視して自分の座をつくるのだ。
まず手始めに、食卓の一等席に自分の持ち物を置く。
恩い切って本革張りの高級なイスを買って置いてもよい。
まさに家長のシンボルがそこに存在することになるのだ。
きっかけは何でもよい。
四十歳になったからとか、結婚十五年とか、勤続二十年、いくらでも方便はある。
とにかくオヤジは黙ってそこに座って新聞でも広げていればよい。
子供たちは二ヤニヤしたり、「どうしたの一とか、「ぼくたちにも新しいイス」とか言うかもしれないが、あえて無視する。
父親は家長のイスにどっかりと座っているだけでよい。
するとどうだろうか。
不思議なことが起こる。
今までバラバラに座っていた家族が父親の席が決まると母親の席が決まり、おのずと長男、次男と順に席が決まっていくのである。
こうして席が決まると、食事時問がずれていた家族も一緒に食べることが多くなる。
もちろん父親も、意識的に早く帰ってきたり、日曜ゴルフはやめて、意識的に団らんの席にどっかと座っていなければならない。
次第に子供たちが父親を尊敬するようになるのだから、そのくらいのことには耐えなければなるまい。
子供のしっけは仏壇・床の間のある住まいから最近、床の間や仏壇がない住まいが多い。
そのことが子供の家庭教育上、大きな問題をはらんでいるのではないかと患う。
つまり、住まいに神聖な場の存在があることを教え、上座下座の作法を教えるのに、こうした反機能的で形式的な空間がどうしても必要だからだ。
事実、育った住まいに床の間のある子供と、ない子供を比較すると、正式な座敷におけるマナーにおいて歴然たる差が現われるのだそうだ。
それもそのはずで、初めて床の間を見る子供は、それが腰掛けだと思ってもちっとも不思議ではないし、そこに腰かけてはいけませんと注意されても、なぜいけないのかわからずキョトンとするだけのことだ。
逆に、床の間のある家で育ち、何やら大切な場所であることを幼な心に感じ取っている子供は、その場に近づくのに慎重である。
子供にとってもっと不可解なものとしては、この床の間以外に〝信仰″にまつわるものがある。
仏壇や神棚に向かって親たちが神妙な顔をして手を合わせたり、頭を下げたり、お供え物をあげたりする。
そうした光景に、子供は、仏壇の扉や神棚の向こうに何か別の世界があることをいつの問にか感じ取る。
これは、奥の深い教育だ。
日常的な生活の中で、こういった非日常的な世界の存在を感じさせたり、生活上の作法を自然に修得させることも、住まいの大切な機能である。
このことをもっと掘り下げて考えると、寝食のための住まいにまったく別の価値を付加することができる。
重大な決断をする時など、「ちょっと一晩考えさせてくれ」などと言うことが多い。
人生にはこの〝ちょっと一晩〟が大切であり、一晩の思考によって人生が変わることさえある。
こんな時の舞台として床の間や書院、さらに仏間がある。
居間のテレビの前やダイニングキチンのテーブルイスに腰掛けて考え事をしていたのでは、心が落ち着かないまま、誤った決断をしかねない。
このように、かつて住まいは思考の場でもあったし、また、家中が生きた教養であふれてもいた。
床の間に掛け軸をかけ、季節の花を生け、節句などの行事も大切にした。
あわせて欄間には名句を飾った。
襖はまさしく一つの美術であった。
お茶、お花の〝遺″をたしなむ人も多かった。
先祖をまつり、重大な思考に取り組む場であるとともに、情緒、教養を無意識のうちに磨く場、それが住まいである。
そして、それが代々続くことで〝家〟となる。
職場や学校から帰ってきて、ただ寝るだけの空間が住まいだとしたら、カプセルホテルと同じわびしさだ。
家族別々に食事をとり、食卓や茶の間を賑わす共通の話題もないとしたら、それはただ体にカロリーを補給する行為にすぎない。
心にバランスの良い栄養を与えてくれた、〝家〟という存在を人々はもう忘れてしまったのだろうか。
心にとって栄養価の高い住まいづくり、という視点を大切にしたいものである。
床の間はすまいのへソ的空間「家」は今生きている家族だけのものではない。
よく「暑さ寒さも彼岸まで」と言われるが、春と秋の彼岸の中日は夜と昼の長さがちょうど半々になる日で、こちら側(俗世)の此岸に対して、悟りを開き得た境地という意味で彼岸という。
これは捏磐の浄土田心憩から釆たらしい。
彼岸の中日にはその「彼の岸」が近づき、祖霊と会えるとも伝、をられる。
その意味でも非日常的で神秘的な日なのである。
この彼岸を通じて、狭い住まいの浮世から、広く深く浬磐、そして祖霊とのかかわりを思うと、心が広々とし安らぐ。
住まいはただ住むだけのものではなく、祖霊を祭り、各種の祭事を行う場所でもあり、子供たちを育てあげる子孫への橋渡しの場であることを忘れてはならない。
「家」は元来、生身の人間たちだけのものではなく、もともと世代を超えて永続する持続的集団だった。
「家」の漢字の中の「家」は、祖霊を祭るためのいけにえの豚であり、その上に屋根をかけたものであると言われている。
この説が正しければ、「家」はまさに霊的で厳粛なものでなければならない。
人類創始のころは、人も動物も洞穴などを巣にして住んでいた。
しかし、長い年月の間に文化が生まれ、その祖先を祭りながら子孫の繁栄を願う「家」の発生があったと考えられる。
「家」は、こうした子育てなどの日常的な生身の生活と、祖霊を祭るなどの非日常的な精神生活とがバランスよく共存していた。
「家」のこの精神性こそ、子供や孫の情緒、さらには人格形成に多大な影響を与えている。
こうした祭事や法事が日本の文化ともなっている。
ところが、最近はこの「家」の本来の意味が薄れ、単なる子育ての巣のような感覚が強くなっている。
お盆や彼岸などの仏事や、節分や節句などの行事を行うこともだんだん少なくなっており、次の世代にはバレンタインデーなどの商業ベースの行事と同じ扱いになるかもしれない。
住まいのつくりで、「家」の精神性がよくあらわれているのが床の間だ。
その奥行きにしろ広さにしろ、いったい何のためにあるのか説明しにくい空間だが、床の間を背に主人や客人が座る場所を決めるための重要な意味を持っていた。
言い換えれば住まいの中心、へソ的空間だったのだが、今日のアパートやマンションでは、床の間は無用の長物として省略されてしまい、たとえ床の間があったとしても、物の置き場か収納棚に改造されてしまっている。

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